21世紀の資本論  150124



トマ・ピケティ「21世紀の資本論」をわかりやすく宮内義彦氏が解説

Capital in the Twenty-First Century」(21世紀の資本)

フランスの経済学者、トマ・ピケティ氏著の英訳本で、

2014年3月に米国で発売されてアマゾンの売上高ランキングのトップ

 ピケティ氏の主張は一言でいうと「富は集中する性質を持っており、

何かしらの手を打たないと格差はどんどん広がり不公平な世界になる」

というもの。圧巻は200年間にもわたる世界各国の膨大な税務統計や

相続記録を集めて分析していることで、この実証的な点がマルクスの

資本論とは大きく異なっています。


 所得を「資本から生まれる所得」と「働いて生まれる所得」の2つに分ける。

比較すると「資本から」のほうの膨らみ方が「働いて」を上回る。

しかも資本は大きければ大きいほど膨らむ率(収益率)が高い。

つまり、資産階級はどんどんその富を殖やしていく。

ピケティ氏はこれについて歴史をひもときながら

資本収益率(r)と経済成長率(g)の差で証明していくのです。

 rは投下した資本がどれだけ収益を上げるかという数値ですから、

資産家の成長性を示していると言えます。

一方、gは国内総生産(GDP)などの伸び率ですから、国民みんなの

成長性を示しています。ピケティ氏の分析によると、第1次と第2次世界

大戦、その復興期間を除き、常にr>gの不等式が成り立つそうです。

つまり資産家の成長性が国民みんなの成長性を常に上回るわけで、

貧富の差は広がる一方だという結論が導き出されます。

予測としては21世紀に入ってこの傾向が

強まるのではないかとの危機意識も高めています。

 ではどうしたら格差という不平等を正せるのか。

マルクスの時代でしたら「革命だ」となるのでしょうが、ピケティ氏は

資本主義を否定はしません。資本主義経済の結果である富の偏在に

対していくつかの試案を示しています。

国際協調により資金移動を透明化し、資産家の富を把握した上で分配の

再調整をしようとの考えです。すなわち税制改革で正義を実現しようと

提言しています。

資本に累進的に課税する制度を創設し、グローバルで資産家から税金を

徴収する。富の再分配を徴税で実行しようという考え方です。

ピケティ氏の主張に沿えば、タックスヘイブンへのマネーの逃避や

企業が法人税の負担が軽い海外へ拠点を移すといった行為は

許されないことになります。個人の心情では賛同できる面が多いのですが、

現行の制度下では是正されることは難しいのでしょう。

現代の企業経営者の立場からすると有利な制度があるのに利用

しないという選択肢はありません。そうしないと不利益を被り、

グローバルな競争に負けて、最悪、市場から退出を迫られることに

なります。特に公開企業であれば、積極的に節税する義務、

収益を最大化する義務を負っているのも事実です。

また世界中の数多くの資産家がタックスヘイブンを利用したり、

中には故国を去って移住したりといった動きもみられます。

 それらが正義に反する行為であり是正されなければならないと

いう主張です。新しい社会正義を何とか確立すべきだと思う熱意が

伝わってきます。

そのためにはやはり制度そのものを変えなければならない。

タックスヘイブン等を利用する節税は不正行為だということで世界が

合意して、その同じ土俵で競い合うことが「新しい資本主義」ということに

なるのでしょうが、ちょっと考えただけでもその実現には相当困難と時間を

伴うように感じます。

 一方で上位1%が富の大半を独占し、半数以下は何も持たずに

その日暮らしという世界が更に拡大するのは、やはりごめん被りたい。

今世紀最大の問題は格差なのかもしれません。ピケティ氏の問題提起は

今後の経済界、各国の政策、国際社会に大きな影響を与えるでしょう。